相続に関する基礎知識

相続税申告における債務について

相続税申告を行う際、不動産や有価証券、預貯金などの財産については相続開始日時点(亡くなった日時点)の現況に基づき評価を行います。

これらのプラスの財産とは別に、相続財産から控除可能である債務の金額も、実務上重要な論点となっています。

財産が3憶円あっても借入金が3億円あれば相続税は出ない、というのは極端な例ですが、相続税の計算上、債務として計上できるものは借入金以外にも多くの種類があります。

相続税の計算上、プラスの財産金額から控除可能ということは、相続税額を下げる効果があるので、財産の評価と同じように細かく確認すべき内容です。

今回は、判断に迷いやすい事例を抜粋して下記の事例をご紹介いたします。

事例
  1. 葬儀費用について
  2. 借入金は遺産分割できるかどうか
  3. 団体生命保険と住宅ローン

それでは、これらについて確認していきましょう。

1、葬儀費用について

葬式費用については、そもそも厳密にいうと債務ではありません。

相続に伴い、相続人が必ず負担することとなるため、国民感情等を考慮し、相続税を計算するときは遺産総額から差し引くことができます。(相続税法第13条1項2号)

税額計算上では債務のように税額を減らす効果があるということです。

葬式費用に該当しないもの

相続税法基本通達13-5では、次の①~④に掲げるようなものは葬式費用としては取り扱わないものとしています。

1 香典返戻費用
→香典を収入として課税しないため

2 墓碑及び墓地の買入費並びに墓地の借入料
→墓石等は非課税財産のため

3 法会(いわゆる法事)に要する費用
→覚え方:通夜、葬儀までかかった費用は債務控除可能

4 医学上又は裁判上の特別の処置に要した費用
→注意:死亡診断書発行費は債務控除可能

実務上、葬儀費用を確認する際には上記の内容を気にしなければならないため、葬儀社からの領収書だけでなく、葬儀費用の明細も必ずお預かりしなければなりません。

もしお手元に資料が無ければ、明細を発行して頂くなどの手続きが必要となります。

2、借入金は遺産分割できるかどうか

まずは民法における可分債権(法定相続分で相続する財産)の考え方を確認する必要があります。

通常の相続財産については、相続人が複数いる場合、遺産分割によって具体的な相続分が確定するまでの間、共同相続人のそれぞれの相続分に応じて、共同相続人による共有となります。

金銭債権については可分債権とされているため、金銭債権の一種である銀行預金について、各相続人は、自己の持ち分について払戻しの請求をすることが可能であるとする最高裁判決があります(最高裁判例昭和29.4.8)。

実務上は、遺産分割協議書を作成して財産の帰属先を確定させてから手続きをするケースが圧倒的に多いです。

貸付金債権についても、金銭債権と同様に、可分債権とされています。しかし、実務的には、遺産分割の対象としています。

一方、借入金債務についても、法律上の性質としては可分債務となりますが、債権者との関係上、実務では特別な手続きがされています。

金融機関からの借入金を、以下の条件であるとした場合で解説します。

・借入金1憶円
・借入金はアパートの建築費用
・アパート及びアパートの敷地が借入金の担保とされている
・亡くなった方からみて相続人は妻、長男、次男の3人

被相続人に属する債務として誰が相続するかとなったとき、借入金の元となったものがアパートの建築費用などであった場合、そのアパートを相続する相続人がこの借入金(債務)も引き継ぎます。

当たり前のことと思われる方もいるかもしれませんが、この場合の債務を相続人たちの意思で自由に付け替えられるようになってしまうと、金融機関にとって将来不利益が発生するかもしれない分割がなされた場合に、金融機関(債権者)は困ってしまいます。

上述の理由などにより、こういった債務は債権者が承諾した形でなければ承継できないことになっています。

3、団体生命保険と住宅ローン

一般的な住宅ローンは、団体生命保険契約とセットになっており、住宅ローン債務の負担者に万一のことがあったとしても、その保険金が住宅ローンの残債に補填されるため、遺族は住宅ローンの債務を支払わなくてよい仕組みとなっています。

これについて、住宅ローンの残債を債務として一旦相続人が承継したのかどうかが論点となります。

相続人が受け取った生命保険金により充当したと考えるのならば、生命保険金はみなし相続財産として、生命保険金控除の対象となり、住宅ローン控除の残債は債務控除の対象となります。また、生命保険金は債権者が受け取り、住宅ローンの残債に充当したとするならば、それにより相続人は債権者から利益を受けたとも考えられます。

しかし、そもそも、団体信用生命保険の契約者や受取人は、住宅ローンを借り入れている金融機関であり、相続人には支払われず、債権者に直接支払われるため、相続財産になりません。

債務の要件は、「相続開始時において確実な債務」であり、団体信用生命保険に加入している場合には、この住宅ローンは消滅する債務であることが確定しているため、債務には該当しません。

これに関して、団体信用生命保険契約に基づき、被相続人の死亡を保険事故として支払われる保険金により充当される被相続人の債務は債務控除の対象にならないとした裁決例があります(昭63.4.6)。

よって、相続税申告を行う際、債務計上も保険金受取の計上も行いません。

まとめ

今回紹介した事例以外にも様々な債務の種類があり、相続税の計算をする上で、中には判断が難しく迷う場合もあります。

繰り返しになりますが、債務は相続税を減らす効果があり、少額でも見落とさなければ納税者有利になるため、実務上は何か少しでも引けるものは無いかと探します。

ここが会計事務所の腕の見せどころでもあり、長年の相談実績や過去の相続税申告の経験が結果を左右します。

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