持ち主のわからない土地の解消を目的として、令和6年(2024年)4月1日から相続登記が義務化されます。
今回は、「相続登記義務化」について詳しくみていきます。
相続登記義務化の背景
これまでは、相続登記が義務ではなく、土地の所有者が亡くなっても記録はそのままになっていました。その結果、所有者が不明な土地が増えていきました。
国土交通省の調査では、持ち主のわからない土地が約410万ヘクタールありました。これは日本の国土の約5分の1にあたります。九州本島の広さが約367万ヘクタールです。持ち主のわからない土地は、九州よりも広いことになります。
(参考:国土交通省「所有者不明土地の実態把握の状況について より」)
不動産登記簿等の「所有者台帳」で、所有者がわからない、または判明しても連絡がつかない土地を「所有者不明土地」と呼びますが、その原因として以下のような状態があります。
- 亡くなった人の名義のまま変更していない
- 持ち主が引越しをしても届け出をしていない
所有者が不明の土地の66%は「相続登記をしていない」、34%が「住所変更をしていない」とのことです。
土地が放置されてしまうと、公共事業や再開発事業がスムーズに進みません。災害が起きた時も復興に向けた用地の取得がむずかしく、取引ができないため、土地の利活用の妨げとなります。高齢化や死亡者数の増加などから今後さらに深刻化することが考えられます。
そのため今までは義務ではなかった「相続登記」「住所変更」に対して、期限を区切って確実に対策を講じていくことになりました。
相続登記義務化は、2021年4月に不動産登記法が改正され、2024年4月1日からスタートとなります。
「相続登記」の義務化について
「相続登記」とは、亡くなった人の持っていた不動産を相続人の名義に変更することです。
不動産の所有者が亡くなると、法務局で「所有権の移転の登記」を行います。相続は、遺言書がある場合とそうでないケースがあります。遺言書がない場合は、相続人全員が話し合う「遺産分割協議」によって相続人の誰が遺産を所有するのかを決めていきます。
- 遺言書による相続
- 遺産分割協議による相続
遺言書がない場合は、相続登記をおこなうために以下のプロセスが必要です。
- 登記事項証明書ー物件の登記状況を知る
- 被相続人と相続人の個性謄本等ー相続人を明らかにする
- 遺産分割協議書の作成
- 法務局で登記申請
相続登記をするには、書類を集め、相続人で財産分けの話し合いをし、話し合いの内容を書面に残す作業が必要になります。
書類(戸籍など)を集めることも大変ですが、その後の財産分けの話し合いがこじれる場合があります。そうなると財産分けが決まらず、お互い連絡を取り合わなくなり、結果そのまま亡くなった方の名義で放置、となってしまいます。
これが「持ち主のわからない土地」の典型的な状況です。
そのままにしておくと相続の権利が移り、子供から孫、ひ孫と、ネズミ算式に増えてしまいます。
相続登記義務化の概要
次に、令和6年4月1日から施行される相続登記の義務化について次の4点についてみていきます。
- 登記の対象者
- 登記の期限
- 登録しないとどうなるか?
- 過去に相続した不動産について
(参考:法務省「〜相続登記・遺産分割を進めましょう〜」より)
相続登記義務化の対象者
まず相続登記の対象者ですが、次の3つのケースがあります。
1、相続により不動産を取得した相続人
2、特定財産承継遺言により不動産を取得した相続人
3、遺贈により不動産を取得した相続人
特定財産承継遺言とは、相続させる旨の遺言のことで、他の共同相続人がいなくても単独で登記を移転できるのがメリットです。
3の遺贈の場合ですと、財産が不動産のとき、他の共同相続人とともに不動産の所有権移転登記をしなければなりません。他の共同相続人が反対した場合は登記の移転が難しくなるため「改正民法(2019年7月1日施行)」で「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言」として特定財産承継遺言が施行されました。
いずれにしても、相続登記の対象となるのは、この3つのケースになります。
相続登記の期限
次に「登記の期限」についてですが、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権の取得をしたことを知った日から3年以内」
となっています。
「所有権の取得をしたことを知った日から3年」とあります。縁が遠い親戚などに相続が発生していて知らなかったケースなど考えられますので、少しふくみをもたせた表現になっています。
相続登記をしないとどうなるか?
改正後は「期限内に相続登記を完了しなかった場合は、正当な理由が認められない場合は「10万円以下」の過料対象となります。
過去に相続した不動産について
今回の法改正では、すでに相続が発生していて相続登記をしていない「過去の相続」にも適用されます。
相続登記が完了していない不動産も、法施行から3年以内に相続登記をしなければいけないとのことです。
「過去の相続」は令和9年3月31日までに相続登記をしなくてはなりません。
「住所変更」の義務化について
住所変更についても義務化される予定です。時期については、交付後5年以内とされていていますので令和8年(2026年)4月28日までに義務化予定です。
「住所変更の義務化」の背景
相続登記同様、住所変更について今までは、義務ではありませんでした。
特に「転居・本店移転のたびに登記する負担」から放置されがちでした。
「転居・本店移転のたびに登記する負担」とは、どういうことかと言うと、例えば静岡に住んでいる父親が亡くなり、話し合いの結果、相続したのは東京に住んでいる「転勤族の長男」だとします。
長男は「相続登記」をきちんと済ませました。法務局の登記簿に書き込まれるのは、長男の名前と「相続登記をした時点の東京の住所」です。
転勤で名古屋・大阪と引越しをした場合、法務局の登記簿も変更しなくてはなりません。
ところが法務局での住所変更はほとんどの方が忘れています。そのため持ち主不明の土地が増えてしまっています。
名義変更をしなくても困ることはありません。今現在、亡くなった人名義のままの不動産は多数ありますし、引越をして新しい住所になったとしても「固定資産税さえ支払っておけばよい」と思い込んでいる方は多くいます。
また役所から送られてくる固定資産税納税通知書の宛名は「納税者」として届くため、名義や住所の変更が済んでいると勘違いされている方も多いです。
こういった背景から、所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付けることになりました。
住所変更の期限
所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付けるとあります。
住所変更しないとどうなるか?
正当な理由がない申請漏れは、過料の罰則ありと書かれています。
また、住所変更については「簡便な手続きの方策を導入するとされています。
具体的には、以下の手順で行われます。
- 登記申請の際には、氏名・住所のほか、生年月日等の「検索用情報」の申し出をおこなう
- 登記官が検索用情報等を用いて、住民基本台帳ネットワークシステムに照会し、所有権の登記名義人の氏名・住所等の異動情報等を取得する
- 登記官が取得した情報に基づき、登記名義人に住所等の変更の登記をすることについて確認をとった上で変更を登記する
まとめ
相続登記を放置していておとがめが無かった時代は終わります。
ネズミ算式に増えた相続人を探し、遺産分割協議を行い、実印を押してもらう作業は、人数が増えるほど時間と費用がかかります。
ここに過料の負担まで加わると大変なことになりますので、早めに相続登記が済んでいるか確認することをお勧めします。
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