相続対策について

共有制度の見直し

1つの不動産を(土地や建物など)を複数人で所有することを「共有」と呼びます。

2021年の民法改正で、この共有に関してのルールが大きく変わります。今回解説する「共有制度」は、令和5年4月1日から適用になります。

共有制度とは

「共有」とは、複数人でお金を出し合うなどして購入した土地や建物のなどを購入した状態のことで、例えば共有した不動産の場合は「共有物」と言います。

「共有」は、親子で1つの建物を購入したり、家の前の私道を近隣の方と協力して購入するなどのケースが考えられます。

一般的に「共有制度」というと、土地や建物などの不動産をイメージしがちですが、共有物の種類としては、土地・建物以外に、株式・知的財産権・預金・信託受益権・担保物権があります。

共有制度には、「変更」「管理」「保存」があり、そのルールとしては以下の通りになります。

共有制度のルール

共有物の「変更」:共有者全員の同意が必要
共有物の「管理」:各共有者の持分価格の過半数で決する
共有物の「保存」:各共有者が単独ですることができる

共有制度の問題点

共有制度の問題点は、何か変更を行うにしても「全員の同意」が必要な点です。

現状、共有者の一人でも明確な返答がない場合は変更できません。

このような共有制度は、相続などの場面で特に問題視されてきました。

通常、土地を所有している人が亡くなると、遺言があればそれに則って相続する人が決まりますが、遺言がなければ「相続人全員」の共有になります。

相続人全員が話し合って遺産の分配を決める遺産分割協議によって、話し合いがスムーズに行われて相続の土地が誰か一人の物となれば良いのですが、土地は分けることが難しいため揉めてしまったり、そのまま放置状態になるケースもあります。

遺産分割協議でうまく話がまとまらない場合は、土地は相続人全員の共有となります。

また、遺産分割協議も行われず、土地の所有者が亡くなった方の名前のままになっている場合もその土地は相続人全員の共有となります。

このようにして共有の土地が増え、変更は共有者全員の同意が必要なため、例えば行方不明者などによって共有者の同意が得られず売却など変更が必要な場合にも対応できない状態が起こっているのです。

その結果、所有者不明の土地が増加し社会問題となっています。
今回の改正はこの所有者不明の土地の問題を解決するためでもあると言われています。

令和3年の民法改正で共有制度の改正がなされ、令和5年4月1日から施行されることになりました。

改正のポイント

共有制度の改正ポイントは、3つあります。

  1. 「変更」:全員一致についての改正
  2. 解消についての改正
  3. 行方不明者がいる場合の新制度が創設

改正ポイント1:「変更」についての改正

今回の改正では、変更、管理、保存のうち「変更」の全員一致についての改正が行われます。

これまでは「変更」については、共有者全員の同意が必要とされていました。

今回の改正では、「軽微変更」「占有者の変更」「管理者の選任」「短期使用権の設定」については、持分過半数で実施できることを明確化する改正が行われます。

持分過半数で実施できるようになるもの
  • 軽微変更
  • 占有者の変更
  • 管理者の選任
  • 短期使用権の設定

これによって、共有物に変更を加える行為であっても「形状や効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)」など、持分の価格の過半数で決定することができるとされています。

また、これまでは、共有物を使用する共有者がいる場合に、その共有者の同意がなくても持分の価格持分の価格の過半数で共有物の管理に関する事項を決定できるかどうかは明確ではありませんでした。

過半数での同意で変更などができるようになると、管理などがしやすくなます。

改正ポイント2:「解消」についての改正

民法では、共有関係を解消する制度として「共有物分割訴訟」という裁判手続きが設けられています。

共有者の中に行方不明者がいたり、共有者が多くいる場合、分割手続きが煩雑化してしまうことがありました。
改正では、事前協議の取り扱いや給付命令の取り扱いを明文化しています。

また、今回の改正で相続開始後10年経過した場合には、共有物分割訴訟で遺産共有の解消もできるという規律が設けられました。

これにより、共有者が死亡した場合の共有関係の解消を完全にすることができることになります。

改正ポイント3:行方不明者がいる場合の新制度が創設

共有者のなかに行方不明者がいる場合は裁判所に手続きをとることで、管理に関する事項を決定することができる制度が新設されました。

これまでは、共有者の中に行方不明者がいる場合、「不在者財産管理制度」という裁判所の手続をし、行方不明者ごとに予納金を納める必要がありました。

今回の改正により、裁判所に手続きを取る新制度が創設されました。内容は以下の通りとなっています。

  • 行方不明者の共有者以外で変更ができる制度
  • 行方不明の共有持分を強制的に取得する制度(不動産限定)

また、明確な答えが返ってこない、賛否を明らかにしない共有者がいる場合管理が困難になってしまいます。

そこで、裁判所の決定を得て、共有者以外の持分の過半数によって管理に関する事項を決定することができるようになりました。

まとめ

民法の改正により、共有制度が大きく変わります。

現在日本には、九州の面積と同じくらいの所有者不明土地があると言われています。
相続発生時に、円滑な話し合いが行われればいいのですが、遺言がなかったり遺産分割協議がうまくいかないと所有者不明土地が発生してしまう可能性が大きくなります。

この問題を解消するためにも、今回の共有制度の改正は大きいものと言えます。
令和5年4月1日施行時にも、また書いていきたいと思います。

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