シリーズで、令和6年7月2日に発表された国税庁資産課税課「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(令和5年度税制改正関係)について」の解説をしています。
出典:国税庁「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(令和5年度税制改正関係)について」https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sozoku/pdf/0024006-159.pdf
ちなみに前回は、相続開始前7年以内に贈与があった場合の相続税額関係:その2として、「相続時精算課税適用者が特定贈与者から暦年課税及び相続時精算課税に係る贈与を受けていた場合の相続税の課税価格に加算される金額」について解説しました。
今回は、相続時精算課税選択届出書を単独で提出した後に贈与税の期限後申告書を提出する場合の相続時精算課税の適用の可否についての事例を詳しくみていきましょう。
「相続時精算課税選択届出書を単独で提出した後に贈与税の期限後申告書を提出する場合の相続時精算課税の適用の可否」の事例の紹介
まずは事例の紹介です。
子Xは、令和6年に父である甲から株式Aの贈与を受け、贈与税の申告書の提出期間内に相続時精算課税選択届出書を提出した。
(注) Xは株式Aの価額を100万円(相続時精算課税に係る基礎控除の額以下)と認識していたため、令和6年分の贈与税の申告書は提出していない。
その後、株式Aの価額について評価誤り(正当額:500 万円)が判明したため、贈与税の期限後申告書を提出することとなった。この場合、相続時精算課税を適用して贈与税額を計算できるか。
相続時精算課税を適用して贈与税額を計算することとなる。
ただし、株式Aについて贈与税の期限内申告書の提出がなかったため、相続時精算課税の特別控除は適用されない。
今回の事例のポイントは、3つです。
- 令和6年1月1日以後の贈与で、相続時精算課税を選択した場合の計算について
- 令和6年1月1日以後の贈与で、相続時精算課税を選択した場合の申告書の提出について
- 令和6年1月1日以後の贈与で、相続時精算課税を選択した場合の特別控除について
1つずつ見ていきましょう。
贈与税の相続時精算課税制度ついて
前提として、相続時精算課税制度について概要をみていきます。
贈与税は、個人から財産を贈与された際にかかる税金です。
課税方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあり、どちらかを選択します。
暦年課税は、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与額の合計から(基礎控除)110万円を引いた残りの額にかかります。
110万円以下であれば、贈与税もかからず申告も不要です。
相続時精算課税は、特定贈与者(相続時精算課税の選択に係る贈与者)から、その年の1月1日から12月31日までの1年間に受けた財産の合計額から110万円を引いたのち、さらに最大2,500万円(累計)まで特別控除が適用されます。
「相続時精算課税に係る基礎控除」110万円は、令和6年1月1日以後の贈与で、それ以前の令和5年12月31日までの贈与には適用されません。
また、2,500万円までの特別控除は、期限内申告書を提出した場合にのみ適用されます。
参考:国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402.htm
贈与税のポイント
- 相続税の課税制度は「暦年課税」と「相続時精算課税」がある
- 相続時精算課税は、令和6年1月1日以後の贈与から基礎控除110万円が引ける
- 期限内申告書提出した場合は、基礎控除差し引き後、さらに累計2,500万円までの特別控除がある
今回は、相続時精算課税についての事例です。
今回の事例のポイントを1つずつ見ていきましょう。
ポイント1:相続時精算課税を選択した場合の計算について
相続時精算課税を選択すると、その年以降、特定の贈与者からの贈与について、年間の贈与額に基づいて贈与税を計算します。
贈与税の計算は、まず110万円の基礎控除と2,500万円の特別控除を差し引いた後、残額に一律20%の税率が適用されます。
相続時精算課税を選択した場合の贈与税額の計算
(1年間の贈与額ー基礎控除110万円ー特別控除2,500万円(累計))×20%
※令和6年1月1日以後の贈与
※特別控除は期限内申告書の提出が必要
令和5年12月31日までの贈与については、110万円の基礎控除はなく、令和6年1月1日以後の贈与に対して適用されます。
今回のケースで考えると、「Xは株式Aの価額を100万円(相続時精算課税に係る基礎控除の額以下)と認識していた」とあるように、その場合の贈与税の計算は、贈与額100万円ー基礎控除100万円=0円とXは認識していました。
ポイント2:相続時精算課税を選択した場合の申告書の提出について
相続時精算課税を適用するためには、まず「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。
届出書は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に、納税地の所轄税務署長に提出します。
相続時精算課税を選択して、1年間の贈与税の計算したときに、贈与額が年間110万円以下の場合は申告書を提出する必要がありません。
注意したいのは、2,500万円までの特別控除を使ったとしても、基礎控除110万円を超える場合は申告が必要な点です。
この申告をしないと、特別控除が適用されず、110万円以上の贈与額に20%の贈与税がかかってしまいます。
今回の事例では、令和6年に子Xが父甲から株式A(当初の価額100万円)を贈与された際、子Xは株式Aの価額を100万円としていたため贈与税の申告書は提出していませんでした。
ポイント3:相続時精算課税を選択した場合の特別控除について
基礎控除110万円を超える贈与について、累計2,500万円までは特別控除が受けられます。
ただし、この特別控除は、申告書を提出した場合に適用されます。
事例では、Xは贈与された株式Aの価額が100万円と認識していたので、110万円の基礎控除内におさまるため、申告書の提出をしていませんでした。
後にこの株式Aが500万円の評価額とされた場合の「特別控除2500万円が適用されるか否か」がこの事例の1番のポイントです。
この事例についての国税庁の解説は、以下の通りです。
この相続時精算課税選択届出書が贈与税の申告書の提出期間内に提出されたことをもってその財産について相続時精算課税が適用されることになるから(相法21の9①②)、たとえ評価誤り等によってその後に贈与税の期限後申告書を提出することとなっても、当該相続時精算課税選択届出書は無効とはならず、引き続き相続時精算課税が適用されることとなる。
ただし、相続時精算課税に係る特別控除(最高2,500万円)は、特別控除を受ける金額その他必要事項の記載がある贈与税の申告書が期限内に提出された場合に限り適用され、期限後に提出された場合には適用されない(相法21の12②)。
これを要約すると、相続時精算課税選択届出書を贈与税の申告期間内に提出すれば、その財産に相続時精算課税が適用され、期限後の申告でも無効にはならない。ただし、特別控除(最大2,500万円)は、期限内に正しく申告された場合のみ適用され、期限後の申告では適用されない。
申告書の提出がないことから、2,500万円の特別控除の適用もできないという回答です。
今回の事例における相続時精算課税の計算
あらためて、相続時精算課税を適用する場合の贈与税額は、財産の価額から特別控除額を差し引いた残額に20%の税率をかけて算出されます。ただし、特別控除が適用されるためには、贈与税の申告書が期限内に提出されていることが条件です。
今回の事例のポイントを踏まえて計算をします。
子Xの事例では、贈与された株式Aの価額が500万円に修正されました。
相続時精算課税の特別控除が適用されないため、計算は以下の通りとなります。
贈与税額 =(500万円-110万円 -0円) × 20% = 78万円
このように、期限後申告書を提出する場合でも、適切な手続きを行うことで相続時精算課税の適用を受けることができますが、特別控除を受けられない旨を理解しておきましょう。
まとめ
贈与税の申告書を提出しなかった場合、後になって財産の評価誤りが判明した場合には、期限後申告書を提出することになります。
今回の事例では、株式Aの評価誤りが判明し、価額が500万円と訂正されました。その結果、期限後申告書を提出することとなりましたが、期限内に提出された選択届出書が有効であるため相続時精算課税の適用は継続されますが、特別控除が適用されないため、課税額は増加することになります。
相続時精算課税選択届出書が既に提出されている場合、期限後申告書の提出があっても、この選択は無効にはなりません。そのため、贈与者が行った贈与に対しては引き続き相続時精算課税が適用されます。しかし、特別控除を受けるためには、贈与税の申告書が期限内に提出されている必要があり、期限後申告書では特別控除を適用することができません。
相続時精算課税制度を適用するには、正確な届出と申告が不可欠です。特に、贈与税の申告書が期限内に提出されていない場合、特別控除が適用されず、結果的に課税額が増加することがあります。相続時精算課税を効果的に利用するためには、財産の評価と申告手続きの両方に細心の注意を払うことが重要です。
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