今回からシリーズで、令和6年7月2日に発表された国税庁資産課税課「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(令和5年度税制改正関係)について」の解説をしていきます。
出典:国税庁「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(令和5年度税制改正関係)について」https://www.rosenka.nta.go.jp/
「質疑応答事例」は、過去に納税者から寄せられた質問とその回答を紹介しているものになります。
相続税及び贈与税等に関する質疑応答の事例を紹介します
まずは、相続税法関係の事例です。
子Xは、父である甲及び母である乙からの贈与により次のとおり財産を取得していたところ、令和10年6月21日に甲が死亡した。
この場合において、当該財産につき甲の死亡に係る相続税の課税価格に加算される金額及びその相続税額から控除される暦年課税分の贈与税額控除の金額はいくらか。
答え:相続税の課税価格に加算される金額は100万円、暦年課税分の贈与税額控除の金額は10.4万円となる。
加算対象贈与財産に係る相続税の課税価格に加算される金額及び暦年課税分の贈与税額控除の計算
今回の事例のポイントは、以下の3つになります。
- 「加算対象贈与財産」の価額の加算
- 暦年課税分の贈与税額控除
- 「100万円控除」の適用
一つずつみていきましょう。
1、「加算対象贈与財産」の価額の加算
相続や遺贈によって財産を取得した人(相続人など)が、特定の期間内に被相続人(亡くなった人)から贈与を受けて財産を取得している場合、相続税法第19条第1項に基づき、その贈与によって取得した財産の価額を相続税の課税価格に加える必要があります。
この贈与によって取得した財産を「加算対象贈与財産」と呼びます。
相続又は遺贈により財産を取得した日に応じた加算対象期間(相法 19、改正法附則 19①~③)
相続税法では、相続開始前の一定期間に贈与された財産を相続税の課税価格に加算することが求められます。この加算対象期間は、相続開始前の7年間です。この事例では、令和6年1月1日から令和10年6月21日までの間に贈与された財産が加算対象となります。
出典:国税庁「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(令和5年度税制改正関係)について」事例1https://www.rosenka.nta.go.jp/
今回の事例では、相続開始の日が令和10年6月21日です。
相続開始日について、「相続放棄」などの手続きでは被相続人と疎遠である場合「相続の開始があったことを知った日」が相続開始日になることがあります。
今回のようなケースは、原則として、「相続の開始の日=被相続人の死亡の日により判定され、「相続の開始があったことを知った日」ではないことに注意が必要です。
また、加算対象期間内で、相続開始前3年以内に取得した財産は、特に注意が必要です。
これ以外の財産に係る期間は、令和6年1月1日から令和7年6月20日までです。
この期間に贈与された財産は、相続税の課税価格に加算される際に100万円の控除が適用されます。
相続の開始前3年目の応当日:令和7年6月21日
相続の開始前3年目の応当日の前日:令和7年6月20日
2、暦年課税分の贈与税額控除
相続または遺贈によって財産を取得した者(相続人等)は、相続開始前一定期間(加算対象期間)に被相続人から暦年課税により贈与された財産の価額を相続税の課税価格に加算することとされています。
これは、相続税法第19条第1項に基づく規定です。
この際、相続人がその贈与財産を取得するために支払った贈与税がある場合には、相続税額からその贈与税の税額を控除することができます。これを「暦年課税分の贈与税額控除」といいます。
具体的には、加算対象贈与財産に対して支払われた贈与税は、その相続税額から差し引かれます。これにより、贈与と相続の両方で二重に税金を支払うことを避ける仕組みになっています。相続税法第19条第1項に基づいて、この控除が適用されます。
例えば、相続開始前3年間に取得した贈与財産に対して課された贈与税額が10万円であれば、その10万円は相続税から控除されます。このようにして、相続人の税負担が調整されます。
加算対象期間と100万円控除の適用期間
相続開始前の7年以内に被相続人から贈与された財産がある場合、その贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算しなければなりません。
ただし、相続開始前の3年以内に取得した財産以外の贈与財産は、総額100万円まで課税価格に加算されないというルールがあります。
また、贈与税が課せられていた場合、その贈与税額を相続税額から控除することができます。
今回の事例では、令和6年1月1日から令和10年6月21日までの間に贈与された財産が加算対象となります。
具体的には、相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産について、令和6年1月1日から令和7年6月20日までの期間に取得した財産(①と③)が100万円控除の対象となります。
具体的な計算
「加算対象贈与財産」の価額の加算、暦年課税分の贈与税額控除、「100万円控除」を適用した今回のケースの具体的な計算は以下の通りになります。
■子Xは父甲と母乙から以下の贈与を受けました。
令和6年1月20日:甲から株式(20万円)、贈与税9万円
令和6年6月30日:乙から現金(180万円)
令和7年2月1日:甲から現金(50万円)
令和7年5月15日:乙から現金(150万円)、贈与税19万円
令和7年12月7日:甲から土地(100万円)
令和10年6月21日に甲が死亡した場合、相続税の課税価格に加算される金額と暦年課税分の贈与税額控除の計算は以下のようになります。
■相続税の課税価格に加算される金額の計算
相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産(①と③)の価額の合計:20万円+50万円=70万円
このうち100万円控除を適用すると、加算される金額は0円となります。
相続開始前3年以内に取得した財産(⑤)の価額:100万円
よって、相続税の課税価格に加算される金額は合計100万円です。
■暦年課税分の贈与税額控除の計算
令和6年分の贈与税額控除:9万円 × (20万円 / (20万円+180万円))=0.9万円
令和7年分の贈与税額控除:19万円 × (50万円+100万円) / (50万円+150万円+100万円)=9.5万円
合計で10.4万円が控除されます。
まとめ
相続開始前7年以内に被相続人から贈与された財産については、その価額を相続税の課税価格に加算し、既に課せられた贈与税を相続税から控除することが求められます。
特に相続開始前3年以内に取得した財産以外の贈与財産については、総額100万円まで課税価格に加算されないという特例があります。
問の事例では、相続税の課税価格に加算される金額は100万円、暦年課税分の贈与税額控除の金額は10.4万円となりました。
具体的な計算方法や適用期間については、個別の事例に応じた正確な計算が必要です。
ご自身のケースで具体的な計算を希望される場合など、専門家に相談するのがおすすめです。
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