我々は相続税申告を行うだけでなく、金融資産の組み換えや不動産活用の提案をする場合があります。
最近、生前のご提案を差し上げる際、保険の加入や収益物件の建て替えに円安の影響がありました。
為替相場の歴史を振り返ったのち、今後相続ビジネスにどういった影響があるのか、実体験をもとに2つの事例をご紹介いたします。
*注意点:この原稿を執筆している時点では1ドル129円で取引されています。(米ドル以外の通貨については今回割愛させていただきます)
為替相場の歴史の振り返り
1ドル129円は、2002年以来、実に20年ぶりの円安水準です。
2002年には、欧州で単一通貨「ユーロ」の流通が開始されました。また、円高については2011年の東日本大震災のとき1ドル75円まで上がりました。このとき日本の輸出業が苦心していたことを記憶しています。
円高から円安へ
円高から円安への円相場の推移をみていきます。
2013年に日銀に黒田総裁が就任したとき、市場に大量の資金を供給する大規模な金融緩和政策が打ち出されました。当時1ドル90円台前半だった為替相場が一転して円安方向に動きます。
2015年6月には1ドル125円台まで円安ドル高が進み、2016年2月には日銀がマイナス金利を導入しました。
当時アメリカでは、リーマンショックからの景気回復を受けてゼロ金利政策の解除が視野に入り始めていましたが、日本では黒田総裁の円安をけん制する働きかけもあり、ここから円安はあまり進みませんでした。
その後、新型コロナウイルスの感染状況などが関係する変動はあったものの、1ドル110円前後の動きが続いていた相場に変化が訪れたのは昨年の10月でした。
現在の円安の原因
原油高に伴うインフレの懸念からアメリカが金融引き締めに向かうという見方が広がり、円安ドル高が進んだ結果、去年の11月には4年8か月ぶりに1ドル115円台となりました。
アメリカの長期金利の上昇を受けて日米の金利差が拡大するという見方から、より利回りが見込めるドルを買って円を売る動きが強まっています。
円安の要因は複合的なものではありますが、以上が現在起きている円安の背景のひとつと言われています。
将来のことは誰にも分かりませんが、日米の金融政策に注視することの重要性を感じ取っていただければ幸いです。
相続への影響
相続税申告の際に為替相場が直接関係あるのは、ドルで通貨を保有している場合やドル建ての保険契約があった場合などが挙げられます。
余談ですが、これらの相続評価の際には亡くなった日時点もしくは贈与日時点における最終の対顧客直物電信買相場(Telegraphic Transfer Buying rate=TTB)またはこれに準ずる相場により行います。
金融機関が顧客から外貨を買って邦貨を支払う場合のレートを使用して、相続税や贈与税の計算をしています。
相続税と外貨との関係を事例からみていきます。
ケース1:保険の提案
生命保険に入られていない方の相続税試算です。
生命保険の非課税枠(法定相続人×500万円)をうまく活用すれば相続税を100万円以上節税できる方で、保険代理店の方と一緒に保険加入の提案をさせていただきました。
予定利率が日本とアメリカでは差が大きいため、お客様へはドル建ての保険が提案されました。相続まではまだ時間があるという判断で、その間の運用益を見込んでいます。
このような場合、例えば500万円分の保険では以下のことが考えられます。
1ドル110円の場合・・・45,454ドル
もし仮に1ドル130円のときに保険契約を締結して、その後1ドル110円のときに相続が開始された場合、契約したときには500万円分の保険だったものが
38,461ドル×110円=4,230,710円となってしまうため、5,000,000円からの差引では769,290円の損が発生してしまいます。
- 上記の損した金額以上を運用によって稼ぐ
- 相続開始後の保険金をドルで保有しておき、円安になったら換金する
などの方法も考えられますが、今回提案したケースでは今の1ドル130円が異常な円安の状況であるとお客様が判断し、1ドル120円になったらあらためて保険契約をするということで話は終わりました。
ケース2:収益物件の建て替え
これについては円安以外にも要因はありますが、建築価額が高騰しているため建て替えを見送ったという事例です。
そのお客様は収益物件を複数保有し稼働率も高かったのですが、古い物件もいくつかありました。
相続対策のために今回の所有者が建て替えを行うケースと、今後も保有を続けて相続してから相続人が立て替えるケースの2パターンを検証しました。
相続財産の圧縮効果のほか、建築価額の高騰に家賃相場が追い付いていない状況で、お客様の判断で建築計画は延期となりました。
納税資金が潤沢にあり、相続対策を急ぐ必要が無かったことも要因としては大きいかもしれません。
どちらのケースも、今後さらに円安が加速するようであれば「あのときやっておけば・・・」というようになるかもしれません。
物事に絶対はありませんが、十分な現状分析が出来ていなければ、そもそも提案自体や、お客様が判断するところまで辿り着きません。
まずはお客様へ現状分析をすることをおすすめいたします。
わからないところ、もっと詳しく知りたい方など、ぜひご相談ください。
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