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【令和6年1月1日以後の贈与】相続時精算課税制度の適用について事例紹介:その4

シリーズで、令和6年7月2日に発表された国税庁資産課税課「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(令和5年度税制改正関係)について」の解説をしています。

出典:国税庁「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(令和5年度税制改正関係)について」https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sozoku/pdf/0024006-159.pdf

前回は、【令和6年1月1日以後の贈与】相続時精算課税制度の適用について事例紹介:その3として、「特定贈与者が贈与をした年の中途に死亡した場合の相続税及び贈与税の課税価格に加算等される贈与財産の価額(2人以上の特定贈与者からの贈与があった場合)」についての事例の紹介でした。

今回は、相続時精算課税に係る贈与により取得した財産について贈与税の除斥期間経過後に評価誤り等が判明した場合の相続税の課税価格に加算される金額についての事例を詳しくみていきましょう。

「相続時精算課税に係る贈与により取得した財産について贈与税の除斥期間経過後に評価誤り等が判明した場合の相続税の課税価格に加算される金額 」の事例紹介

まずは事例の紹介です。

事例2-4

相続時精算課税適用者Xは、令和6年中に特定贈与者である甲(父)及び乙(母)からの贈与により取得した財産について、次のとおり贈与税の申告を行った。

その後、令和6年分の贈与税について更正ができないこととなった日以後に、甲からの贈与により取得した土地の価額について評価誤り(正当額:900 万円)を把握した。この場合、これらの財産につき甲及び乙の死亡に係る相続税の課税価格に加算される金額はそれぞれいくらか。

答え
甲の死亡に係る相続税の課税価格に加算される金額は 850 万円、乙の死亡に係る相続税の課税価格に加算される金額は540万円となる。

今回の事例のポイントは「贈与税が更正できない日以後に、評価誤りがあった場合の相続税の課税価格はいくらになるのか」です。

相続時精算課税を選択した場合、特定贈与者が亡くなったときに相続税を計算します。その際、相続で受け取った財産とこれまでに贈与された財産を合わせた金額に対して相続税を計算します。

相続時精算課税の選択に係る贈与者(「特定贈与者」といいます。)の死亡に係る相続税額の計算において、相続時精算課税を選択した受贈者(「相続時精算課税適用者」といいます。)は、その特定贈与者から相続または遺贈により取得した財産と相続時精算課税の適用を受ける財産(「相続時精算課税適用財産」といいます。)を相続税の課税価格に算入して計算した相続税額から、相続時精算課税分の贈与税相当額を控除して、納付すべき相続税額を計算します。その際、相続税額から控除しきれない贈与税相当額については、還付を受けることができます。

出典:国税庁「No.4152 相続税の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152_qa.htm

今回の事例は、贈与税が更正できない日以後、相続税の金額=贈与価格の計算はどのようにするのかを、以下の手順で説明していきます。

  1. 相続時精算課税を選択した場合の贈与税の計算
  2. 相続時の課税価格の計算方法
  3. 除斥期間が過ぎた場合の相続税の計算

相続時精算課税を選択した場合の贈与税の計算

相続時精算課税を選択した場合、特定の贈与者ごとに1年間で受けた贈与額の合計から基礎控除110万円と、最大2,500万円の特別控除(過去に控除済みの分は残額のみ)を差し引いた残額に贈与税がかかります。

贈与税の計算手順
  1. 1年間に贈与を受けた財産の価額の合計を算出
  2. 相続時精算課税に係る基礎控除額110万円を差し引く(令和6年度以降の贈与について適用)
  3. 特別控除額(上限2,500万円を控除)
  4. 残った金額20%の贈与税率を適用して贈与税額を計算

相続時精算課税を選択した場合、特定の贈与者からその年に贈与された財産の合計額から基礎控除額110万円を引き、さらに2,500万円までの特別控除額を差し引いた残額に対して贈与税がかかります。基礎控除額110万円は、受贈者ごとに1年間で適用され、複数の贈与者から贈与を受けた場合には、各贈与者の課税額に応じて按分します。

今回の事例では、Xは、甲から土地500万円、乙から現金600万円の贈与を受けたので、基礎控除の計算は以下の通りになります。

甲(土地500万円)の基礎控除=110万円✖️500万円/(甲500万円+乙600万円)=50万円
乙(現金600万円)の基礎控除=110万円✖️600万円/(甲500万円+乙600万円)=60万円

ここから、最大2,500万円の特別控除(過去に控除済みの分は残額のみ)を差し引いた残額に贈与税がかかります。

 参考:国税庁「複数の人から贈与を受けたとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4410.htm

 参考:国税庁「贈与税がかかる場合」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402.htm

相続時精算課税を選択した場合の相続税の計算方法

特定贈与者が亡くなった場合は、以下の順に計算します。

相続税の計算手順
  1. 相続財産の合計
    特定贈与者から相続または遺贈で取得した財産と、相続時精算課税による贈与財産を合計する
  2. 相続税額の計算上記の合計額を基に相続税額を計算
  3. 贈与税額の控除
    既に支払った相続時精算課税に基づく贈与税分を、計算した相続税額から控除
  4. 相続税額の確定
    控除後の金額が、実際に納付すべき相続税額となる

相続時精算課税を選択した場合の相続税は、特定贈与者が亡くなった際、それまでに贈与された財産と相続・遺贈による財産を合計した金額に基づいて計算されます。

その相続税額から、すでに支払った贈与税額を控除し、控除しきれなかった贈与税は相続税の申告で還付を受けることができます。

除斥期間が過ぎた場合の相続税の計算

贈与税の時効は原則として6年とされています。
悪意がある場合は7年に延びますが、時効が成立するためには贈与の事実が確実に認められている必要があります。。

また、贈与税の申告漏れが発覚した場合、無申告加算税や重加算税など高額なペナルティが課されることがあります。

今回の事例「令和6年分の贈与について更生ができないこととなった日以後に、甲からの贈与により取得した土地の価額について評価誤りを把握した」場合の計算についてみていきます。

✔︎贈与財産のは贈与時の価額で計算する

特定贈与者からの贈与により取得した財産について、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算される金額は、当該財産に係る贈与税の申告書等に記載された課税価格ではなく、当該財産に係る贈与の時における価額により計算した金額と解されている(相法 21 の 15①)。

そのため、贈与税の除斥期間経過日(通則法第 58 条第1項第1号イに規定する更正決定等ができないこととなった日をいう。以下同じ。)以後に、贈与税の申告書等に記載された財産の価額が評価誤り等により異なることを把握した場合であっても、当該評価誤り等を是正した後の当該財産に係る贈与の時における価額により計算した金額を、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算することとなる。

参考:国税庁「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(令和5年度税制改正関係)について(情報)」https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sozoku/pdf/0024006-159.pdf

特定贈与者からの贈与財産について、その人が亡くなった際の相続税の課税価格に加算される金額は、贈与税の申告書に記載された額ではなく、実際の贈与時の価額で計算されます。このため、贈与税の申告期間が過ぎてから申告内容に誤りが見つかっても、修正後の正しい贈与時の価額に基づいて相続税の計算に反映されます。

以下、事例の「令和6年分の贈与税について更正ができないこととなった日以後に、甲からの贈与により取得した土地の価額について評価誤り(正当額:900 万円)を把握した」の取り扱いについてです。

✔︎評価誤りがあった場合でも基礎控除額は申告時のままとなる

一方で、相続税の課税価格に加算される金額の計算に当たり、是正した後の財産の価額から控除される相続時精算課税に係る基礎控除の額については、贈与税の除斥期間経過日以後に評価誤り等を把握した場合には、当該是正後の財産の価額に基づき再計算した金額ではなく、贈与税の申告書等に記載された相続時精算課税に係る基礎控除の額となる。

参考:国税庁「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(令和5年度税制改正関係)について(情報)」https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sozoku/pdf/0024006-159.pdf

相続税の課税価格に加算される金額を計算する際、相続時精算課税に係る基礎控除の額については、贈与税の申告期間が過ぎた後に財産の評価誤りが判明しても、申告書に記載された基礎控除額がそのまま適用されます。つまり、是正後の財産価額に基づく再計算は行われず、申告時の基礎控除額が引き続き使用されます。

相続税の課税価格に加算される金額の計算

Xが取得した甲の土地500万円が、その後900万円と評価誤りであった場合についての計算は以下の順で導きます。

①甲の死亡に係る相続税の課税価格に加算される金額

※申告時の基礎控除額が引き続き使用される

甲の死亡に係る相続税の課税価格に加算される金額
=900万円(是正後の土地の価額)ー50万円(基礎控除額)
=850万円

②乙の死亡に係る相続税の課税価格に加算される金額

乙の死亡に係る相続税の課税価格に加算される金額
=600万円(現金)ー60万円(基礎控除額)
=540万円

まとめ

今回の解説は、国税庁の質疑応答事例に基づき、相続時精算課税を選択した贈与財産について、除斥期間後に評価誤りが発覚した場合の相続税の計算方法を説明しています。

相続時精算課税制度では、特定の贈与者が亡くなった際、相続税を計算するために相続財産とこれまでの贈与財産を合計し、その金額から贈与税額を控除します。

今回の事例では、申告後に評価誤りが判明しても、相続税の課税価格には贈与時の正しい価額を基に再計算が行われますが、基礎控除額については申告時の金額が適用され、修正はされません。

この計算ルールにより、贈与財産が甲の死亡時には850万円、乙の死亡時には540万円として相続税の課税価格に加算されます。

 

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